研究内容

1950年代にノーベル賞科学者であるフランシス クリックによって提唱されて以来、「DNAがRNAをつくり、RNAがタンパク質をつくる」というルール、いわゆる「分子生物学のセントラルドグマ」は生命の最も基本的な原理だと考えられています。私たちの研究室ではセントラルドグマの中心であるRNAからタンパク質が作られる翻訳という反応がどのように制御され、それがどのように生命をコントロールしているのか、を理解するために研究を行っています。

私たちのDNAには約2万の遺伝子が備わっています。それらは常にスイッチがオンになっているわけではなく、細胞は時と場合に合わせて巧みにスイッチを切り換えています。これまでの生物学では、遺伝子のオン・オフはDNAからRNAへ写し取られる、いわゆる転写の段階でおきており、RNAはタンパク質への単なる情報の運び屋としての機能しかないと広く考えられてきました。

しかしながら近年の研究により 1) RNAの量は実は細胞内のタンパク質の量の30−40%程度しか予想できないこと、2) RNAには frame shift site、複数の翻訳開始コドン、ストップコドンの read throughなどが存在し、最終的に作られるタンパク質の質を巧みに制御していることが明らかになり、量的にも質的にも単純にRNAから最終的に作られるタンパク質を予想することが難しいことが分かってきました。またRNAは単なるタンパク質の情報を備えてるわけではなく 3) コドンやアミノ酸の配列により翻訳が一時停止し、それと協調したタンパク質合成の制御機構があること、また 4) コドンの使用頻度と協調したRNAの分解などが明らかになりつつあり、RNAはタンパク質の情報以上に二次的三次的な情報をコードしていることがわかってきました。
以上のように、細胞の中では、私たちがこれまで想像していたよりもはるかに複雑で緻密な「翻訳」の制御が生命をコントロールしているようです。しかしながら、翻訳という反応が1950年代から分かっているのにかかわらず、それがどのRNAが、どのように制御を受け、それがどのように生命を司っているのか、といったことはほとんどわかっていません。私たちの研究室では主に2つの方法論を組み合わせることにより、RNAとその翻訳が司る生命現象の謎に挑戦しています。

次世代シーケンサーを用いた網羅的解析

近年のシーケンサーの発達によりRNAの配列と量を網羅的に解析することができるようになりました。これを利用したribosome profilingと呼ばれる技術を駆使し、どのようなRNAのどのコドンがribosomeによって解読されているかを網羅的に解析することにより、翻訳の状態を俯瞰します。

また同時に、翻訳を制御するRNA結合タンパク質がどのようなRNAに結合しているのかを次世代シーケンサーを用いた解析により明らかにすることで、RNA-RNA結合タンパク質-翻訳の三者の関係を明らかにします。

古典的な生化学を用いた作用機序の解明

翻訳は複雑で多段階の反応を経ます。また同時にそれぞれの段階で様々な調節機構を備えています。それらの詳細なメカニズムを明らかにするためには、反応をそれぞれの素過程に分解し解析する必要があります。このために、古典的ですが非常に強力な生化学的アプローチによって、RNAと翻訳の制御の詳細なメカニズムの解明を行っています。
GO UP